本紙 130,5 ×57,8㎝
軸装 206 ×62,8㎝
紙本淡彩

手前の舟に3人乗っています。

大雅の山水画には、
舟人がよく描かれますが、
こんなに大きく、しかも3人は珍しいかもしれません。

すぐ向うに見える岸辺は、
左下から右上に斜めに遠く、
遠近がはっきり描かれています。
一番遠くは、かなり渇筆で、うっすらです。

中景に描かれた水辺と連続性なく、
幻のように聳える3つの峰。

岩々が重なり合った強い稜線と擦りつけたようなカサカサの皴は、
山の姿を、
見える部分だけでなく、
内在する
無数の木々や葉や、生き物たちや空気や土、
名前の付けられない気配を、
一つの存在として的確に表現しています。

車を運転して山中の高速道路を行く時、
瞬間瞬間に変わる山との距離、位置関係で、
見える山の姿がどんどん変わっていくことがあって、
めくるめく感動的です。

あんな感じでしょうか?

山々の稜線は裾野にむかってすーっと消えていて、
蜃気楼のようです。

一方で、
幹を垂直の二本線で、
葉を左右に、ブラシみたいに真横にふさふさ描いた樹々の塊は、
中景の遠景も同じサイズ感です。

遠近感のはっきりした中景の水際と、
遠近感を無視した樹木の存在。

これは、大雅による風景の再構成。

大雅自身による賛は、

閒遊来早晩
已得一周年
嵩洛供雲出
朝廷乞俸銭
長謌時獨酌
飽食後安眠
聞道山榴友
明朝向玉命

葭庵寫

本作品には、大雅の門人青木夙夜の寛政12年(1800)の極め書があり、

「此幅先師大雅翁荘年所冩
於聖護院之居
寛政寅申小春 晩生餘夙夜證」

聖護院の大雅の住まいで描かれたと記されています。

聖護院は、大雅が
20歳から知恩院袋町に引っ越す23歳くらいまでの住まいです。

水平を斜めにとるのは、
大雅のごく若い時代の一つの特徴ですが、
こなれた筆致から、
20歳代前半の作品とは思えません。

また、
印章「橆名 貨成」白文、
連印は、
私の持つ資料で確認できる一番時代の早い作品は、
宝暦5年(1755)32歳の時に、
董其昌の書に書いた跋文に捺され、
一番遅いのは、
41歳作・青緑山水画帖(サントリー美術館蔵)であること、

他に年記の確認できる作品は、すべて30歳代の作品であることから、

本作品は30歳代の作品と推測されます。

関防印「高(判読不能)」白文方印・は初見です。

もう一つ大きな点は、
本作品に書かれた大雅の号「葭庵」は、
落款としては、私は初めて見ました。
《葭》の下部分の《あ》に見える形は、
30歳代後半から40歳代の「霞樵」落款の《霞》に、
とても良く似ています。

この「葭庵」は、
18歳で初めて改名した時の号の一つです。
20歳で、「九霞」「大雅堂」「竹居」「玉海」と更に改めますので、
10歳代の若い時、足掛け3年だけ使った号なんです。

作品としては30歳代の作。
しかし落款は、ティーンの時の号。
しかも、一番近しい門人が、
若い時の居住地聖護院の住まいで描いたと極めている。

以上のことから、
これは、全く勝手な奥測に過ぎませんが、

一番手前に大きく書かれた舟の上の3人は、
大雅と、
生涯の親友であった高芙蓉、韓天壽の3人だと、
私は考えています。

「葭庵」と名乗っていたころに、
この二人と大雅は出会っています。
その時代のことを、
30歳代になってから描いた(書いた)作品ではないか。

現在は、
賛の五言律詩が何を言わんとしているか不明なため、
核心に迫ることはできません。

(判読にあたって、古文書研究家の知人にご教示をいただきました。)

とても興味深い作品ですが、
コンディションが激悪です。

上部は欠損部分に別紙が補われています。
ヨゴレ、虫食い、折れなど多数。
下部には、本紙の絵の部分から軸装にかけて、
液体の流れた跡がついています。
画像をご覧ください。

汚れを上回る、強い画力です。
掛けて眺めるうちに、静かに漲る力が見る者の胸を打つ作品です。

時代箱
青木夙夜の極め書有

¥100,000
消費税・送料込

◇お問合せフォーム◇
◆お買い物の流れ◆
◇営業予定◇

◇facebook◇

池大雅
享保8年(1723)~安永5年(1776)
諱/橆名(ありな)・勤
字/貨成・公敏
号/大雅堂・三岳道者・霞樵・九霞、他

京都に生まれ活躍した、絵師で書家、文人。
当時、応挙・若冲と並ぶ、大人気アーティストです。
20才代ですでに名声が高く、
旅が好きで日本各地を旅したため、
日本各地に大量に贋物が存在しています。

近世の絵師で、
国宝・重要文化財に指定されている作品は大雅が最も多いことは、
現在ではあまり知られていません。
文化庁にも数多くの大雅作品が収蔵されています。

川端康成、梅原龍三郎、谷川徹三ら
一流の文化人、画家たちも大雅に魅了され、
その作品を愛藏されていました。
国宝に指定されている「十便十宜図」は川端康成さんの旧蔵品です。

池大雅筆夏山獨舟図

橆名・貨成白文連印

関防印
朱の彩色あり
 
ヨゴレ・傷み・補紙
虫穴
 
折れ・傷み多い
 

裏面
 

巻き留めに夙夜の極め書
 
別紙/夙夜の極め書と旧蔵者鑑