本紙 約125 ×43㎝
軸装 約193 ×57㎝
絹本墨画
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そそり立つ岩の上に、長い長い葉をなびかせる蘭。
清々しく伸びやかな葉、
丁寧に描かれた一茎の枝の花々。
清楚で、圧倒的な品格の高さです。
たっぷりと水を含ませた薄墨で描き、
濃い墨を加える「垂らし込み」技法が使われています。
岩は荒いタッチで描かれ、
蘭のしなやかさを強調しています。
この皴(岩肌の表現)なんか、見たことない!
厳しい条件の上でも、
こんなにも強く、優しい葉を伸ばし、
清らかで、気高い花を咲かせる蘭の花。
この、しなやかで独特に柔らかな表現は、
絹本でなければ表れないタッチです。
昭和35年に中央公論美術出版から発行された、
《池大雅作品集》に収録された画作品682点の内、
蘭を描いた作品は29作品。
蘭だけを描いたのは25作品ですが、
その中で、絹本の作品はたったの1点だけ。
絹本作品はレアです。
書画作品が描(書)かれる素材は、
紙本
絹本
絖本(こうほん)
の三種類です。
絖本は、絖(ぬめ)と呼ばれる、
目の詰まった高級な絹。
バレエのトウシューズを思い描いてくださると、わかりやすい素材です。
光沢のある最高級素材。
紙よりも絹の方が、高価な素材です。
絹に描く場合は、初めから力の入った作品を描くつもりの時。
本作品は、
蘭を好んで描いた大雅作品の中でも、
特別丁寧な力作です。
岩が、バックの空白よりも白いですね。
バックの空白全体に、薄く色が付けられているんです。
大雅がバックに色を掃いた作品は、珍しいです。
その上、大抵は薄墨を更に薄く施すものなんですが、
本作品のバックに施されているのは、薄墨ではありません。
顔料は不明ですが、
私は、極く薄い金泥ではないかと思っています。
蘭は、清楚で高潔な姿から
徳が高く、芸術・学問・礼儀を備えた人を象徴する四君子の一つでもあり、
蘭単体で描かれることも多いのですが、
本作品では、荒々しく切り立った岩、
更に下方に、丸みのある石、その周りに点苔を丁寧に描くことによって、
画作品として、より完成された
鑑賞の愉しみの多い作品として描かれています。
非常に良い作品です。
「深濘池氏」白文方印
「橆名」白文方印
この印章は、年記のある作品では、
宝暦9年(1759)、大雅37歳の作品に捺されており、
30歳代と40歳代前期と考えらる作品に捺される印章で、
「深濘池氏」と「橆名」は、
同じ印材の両面です。
岩の中ほどに「ぴょっ」と、
カタツムリの目みたいに飛び出た苔の表現がありますね。
これは大雅の筆の一つの特徴です。
30歳代では多用しますが、40歳代では最小限の加筆です。
このことや、
表現力の充実した筆致から、
30歳代末~40歳代前半の作品と思われます。
款はありません。
妻玉瀾のために制作されたと考えられる作品や、
般若心経など、
プライベートな作品には、款記を入れないものもあること、
絹本に描かれた手の込んだ逸品であることから、
大雅自身の思い入れがとても深い、
自分またはごく親しい人のために描かれた作品と推測します。
軸装に目立つ傷み・虫食い・汚れがございますが、
本紙は非常に良いコンディションです。
バックに掃かれた着色に斑(ムラ)がございます。
これは、古い画絹は性質が不安定なために現れた斑と考えられます。
旧蔵者表書時代箱
¥150,000《ご商談中御礼》
消費税・送料込
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池大雅
享保8年(1723)~安永5年(1776)
諱/橆名(ありな)・勤
字/貨成・公敏
号/大雅堂・三岳道者・霞樵・九霞、他
京都に生まれ活躍した、絵師で書家、文人。
当時、応挙・若冲と並ぶ、大人気アーティストです。
20才代ですでに名声が高く、
旅が好きで日本各地を旅したため、
日本各地に大量に贋物が存在しています。
近世の絵師で、
国宝・重要文化財に指定されている作品は大雅が最も多いことは、
現在ではあまり知られていません。
文化庁にも数多くの大雅作品が収蔵されています。
川端康成、梅原龍三郎、谷川徹三ら
一流の文化人、画家たちも大雅に魅了され、
その作品を愛藏されていました。
国宝に指定されている「十便十宜図」は川端康成さんの旧蔵品です。
小動物にも見える生き生きとした花の姿
水分の多い珍しい皴
激しく素晴らしい表現です
垂らし込みでつけられたアクセントが、柔らかで強い効果を上げています
「深濘池氏」白文方印
「橆名」白文方印
ぴよッと飛び出す点苔
軸装のコンデション悪し
一番きつい傷み裏面
裏面
軸先