その作品が3点も国宝に指定されているにもかかわらず、
とっても知名度の低い「池大雅」。

伊藤若冲や円山応挙、与謝蕪村、曽我蕭白と同じ時代、同じ京都に生きたアーティストです。
教科書で見た日本美術の巨星たちが、
「我こそは都一番の絵師!」と腕と名声を競った時代に、

大雅は師匠も持たず、誰とも競わず、ただひたすら日本の古典を写し、
文化芸術先進国であった中国・朝鮮の作品を独学し、漢籍を学び、
たくさん旅をして実景を我が物とし、帳簿ですら篆書で記すほど修練に修練を重ね、
自らの理想とする無双の書画世界を創り出すことに人生をかけました。

ちょうど、将棋の藤井聡太さんみたいな人ではなかったかと、私は想像しています。

誰かに勝つためではなく、描く(書く)のが好きで好きで堪らないから描く(書く)。
自分がもっと上手くなりたいから描く、自分で学ぶ。

大雅は7才で檀王法林寺(弊店から見えるところにあります!)内に住んだ清光院一井に書を学び、
当時の文化アカデミーの頂点・宇治萬福寺で、12代住職・杲堂元昶の眼前において大字を披露、
「七歳神童」と偈を賜ります。
杲堂元昶(こうどうげんちょう)は、中国から日本に招かれた高僧です。

大和郡山藩の家老・柳沢淇園(柳里恭)に見いだされ、
ハイクラスの社会にも紹介されます。
江戸時代最大のイベントの一つ、幕府の正式な外交使節である朝鮮通信使が京都に滞在した時には、
使節団と交友の場で書を披露する栄誉を与えられました。
大雅は、第10回(1748年/延享5)、第11回(1764年/宝暦14)の通信使来日の折に
一行の京都の宿舎であった本圀寺で、通信使の画員に会って交流を深めています。

詳しくは→◆池大雅筆 朝鮮通信使行列図◆をご覧ください!

26才で江戸に行った大雅の人気振りが、
「大名の御座敷へ罷出、あなたこなたにて席画仕候」
と、講釈師の馬場文耕の書いた「当世武野俗談」に登場しています。

「席画/せきが」は宴席などでお客様の前で即興で描くことです。
この時、大雅が筆の代わりに指や爪で絵を描く「指墨画(または指頭画)」が大人気!
この画法を大雅に教示したのは、柳沢淇園だったといわれています。

20才代で全国区で人気アーティストとなり、
かつ、旅が好きでそこら中を旅した大雅。
描きたくて堪らない大雅は、ちょっとした依頼にも応えて描いています。

国宝・楼閣山水図屏風(東京国立博物館蔵)は、一橋徳川家伝来。
第2代当主・徳川治済(はるさだ)公に、京極家から迎えた妻の婚礼調度の一つであったともされています。
全ての画面の下地に金箔が隙間なく貼られた金屏風に、
水辺の楼閣と山岳の楼閣が右隻左隻に細密に描かれます。
群青・青緑・朱・金泥などが濃く鮮やかに使われた、極上中の極上作品。

そんな、お金にいとめをつけない作品制作依頼も受けたし、
近所の祇園の藝子(芸妓)さんのたばこ入れや扇に、一枚百文で描いたとも、文献に記されています。

とにかく多作な大雅!
生きているときから大人気だったし、
それ以降もずーっと有名でした。

明治31年(1898)から刊行された「博文館少年読本」全50編の伝記児童書の、
第16編は「池大雅」。
このシリーズでは、西郷隆盛や坂本龍馬も取り上げられていて、
当時大雅が彼らと同列の偉人であったことがわかります。

昭和32年から2年余り「南画研究」(中央公論美術出版)は、池大雅特集。
その付録に大雅作品の画譜を配本し、35年に「池大雅作品集」として集大成。
掲載作品は811点です。
当時、どれほど大雅人気の熱量が高かったか容易に推測されます。
この当時は、所載のすべての作品の所有者が記載されていて、
どなたがどの大雅作品をご所蔵だったかわかります。
出光佐三・吉川英治・大原總一郎・伊東深水・川端康成・
鈴木三郎助(味の素創業者)・濱口梧洞(ヤマサ醤油経営家)らの他に、
吉田茂や龍村平蔵・徳川無声の名前も!(敬称略)

ちなみに、もう一つの国宝・十便十宜図(蕪村作品との合わせ帖)は、川端康成さんの旧蔵。
康成さんは、家を買おうとしていた時に、十便十宜図が売りに出て、
家を買うお金で十便十宜図を入手されたと何かで読みました。
家と同額!

なのになぜ今人気がないのか?

もちろん、大雅作品の芸術的評価は、今もとても高いのです。
でも一般的には、ほぼ無名です。
なんでなのか ?

詩人の大岡信さんは大雅の素晴らしさを、

❶瞬時に人をひろびろとした空間に連れ出し、我を忘れるほどに遊ばせてくれ
❷我にかえってから、実に爽やかな気持ちにさせてくれ
❸没入して楽しく遊んでいた世界とは、自分自身の内側に広がっている世界にほかならないと気づく

と書かれています。

SNSやドラマ、エンターテイメント、イベント等々で、
享受するだけの激しい興奮、より強い精神的刺激、手軽な心地良さが努力しなくても手に入る時代です。

自らの内に、深淵で爽やかな世界を持つ人ほど、
大雅作品を愛してやまないように思います。

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