胴径 約7,5㎝
高さ 約5,9㎝
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嵯峨棗は、桃山時代から江戸初期に、
嵯峨嵐山の辺りでお土産として売られていたお品、とされています。
でもこんなに上手い蒔絵が、名もない大量生産の職人にできるのかな、
と疑問の湧く、手練れの蒔絵です。
桃山的な大胆奔放な意匠。
手擦れによって時代の表れた蒔絵の素朴さや、
時間しか作れない漆の落ち着いた姿が、歴々と数寄者を魅了してきました。
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二本の枝垂れ柳の細い幹が波打ちながら伸び、
甲のほぼ中心で髪を振り乱すように枝を広げています。
とてもたくさん枝分かれして、側面のすべてに枝を垂れています。
葉っぱより華奢な、花を茂らせた枝が数多く垂れ、
合間に、アーモンド形の葉を携えた枝がランダムに挟まり、
それは花より大きいので、
大・小小小小・大・小小・大・小小小、といった具合に
不規則に、自由で複雑な縞となっています。
この、うねっとした幹で、天辺から枝を分けて枝垂れる柳は、
2021年にMIHOミュージアム《蒔絵の時代》展で紹介された
「枝垂桜蒔絵長棗」(沖原弁治旧蔵)に非常によく似た姿です。
本作品は、嵯峨蒔絵というには少し時代が下がりますが、
桃山の意匠を継承した、魅力的な作品です。
合の重なり部分が、かなり内側に傾斜しているのも面白い。
蓋裏に、桜の花・花びらが金蒔絵されていますが、
甲の裏面だけ塗り直しされていて、
明らかに、後の時代に描き加えられています。
内側は経年により赤茶けた部分がございます。
また、蓋側面に亀裂を修復した痕跡がございます。
底に薄い亀裂、身の縁にホツがございます。
底が厚く、手取りが重いです。
鹿皮紐のつけられた箱の蓋表「柳桜蒔絵棗」の墨書きは、
桜が加えられてから誂えられた箱であることを物語っています。
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蓋裏

修復痕内/ 外
内側




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蓋の桟が一本欠損しています

