本紙 約127,4×27,4㎝
軸装 約194,5 ×39,1㎝
紙本
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「藜杖全吾道」
玄宗皇帝の天宝年間(742~756)くらいの唐の詩人・劉長卿の詩の中の一文です。
藜(あかざ)の茎は軽く丈夫、藜杖(れいじょう)は老人向けの杖のこと。
「藜杖吾道を全うす」は、
老いて隠遁すると自分が一番自分らしく生きられる、の意。
世間を離れて生きる文人の理想の生き方です。
大雅の大お気に入りの言葉であったのでしょう。
池大雅作品集(中央公論美術出版/昭和35年)に所載書作品121点内に、
この一行が2点掲載されています。
他に、両脇に「溪辺探句図」「高士朋友図」の画作品二幅を伴って三幅対になった作品も作品集に掲載されていて、
それは、出光佐三氏→出光美術館のご所蔵です。
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肩の力をすっかりぬいた、悠々とした筆運び。
「吾」の「口」はただ一本の「一」で表わされ、
「道」の「自」部分は、ぴらっと伸ばした縦の点。
取れるモノは一切削ぎ取られ、自由で清澄。
書の古典の型を自らの血肉とした者にだけ降りてくる書の神様が
大雅の筆に降りてきました。
間違いなく、大雅の書の傑作の一幅です。
例えば聖徳太子のような貴人が、
リラックスした様子で立っていて、言葉に表せないオーラが発せられている。
そんな一行です。
款記は「九霞山樵書」。
見事な連綿。
擦れているのが、主役の五文字にこの上なく見事に添うています。
関防印〈遵生〉朱文長方印は、
30才代後期~生涯使われた印章。
国宝・十便十宜図にも捺されています。
〈霞樵〉朱文聯印は、30才代から最晩年まで、最も多く使われた印章の一つです。
上記作品集811点中、145作品に捺され、大雅といえばのメジャーな印。
作品の姿から、40才代後期の作品と推察いたします。
軸装のコンデション激悪でありましたため、
弊店で軸装替えいたしました。
作品によく合った、我ながら良い軸装でございます。
時代箱
《お問い合わせください》
印章
傷みの修復部分がございます
鑑賞には全く差し障りございません
象牙軸先
箱の両側面貼り紙
元は龍公美の箱であった痕跡です。
龍公美(1714~1792)は、彦根藩需。
大雅との合作もあります
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池大雅
享保8年(1723)~安永5年(1776)
諱/橆名(ありな)・勤
字/貨成・公敏
号/大雅堂・三岳道者・霞樵・九霞、他
京都に生まれ活躍した、絵師で書家、文人。
当時、応挙・若冲と並ぶ、大人気アーティストです。
20才代ですでに名声が高く、
旅が好きで日本各地を旅したため、
日本各地に大量に贋物が存在しています。
近世の絵師で、
国宝・重要文化財に指定されている作品は大雅が最も多いことは、
現在ではあまり知られていません。
文化庁にも数多くの大雅作品が収蔵されています。
川端康成、梅原龍三郎、谷川徹三ら
一流の文化人、画家たちも大雅に魅了され、
その作品を愛藏されていました。
国宝に指定されている「十便十宜図」は川端康成さんの旧蔵品です。