本紙 約137 × 56,5㎝
軸装 約215 × 72,5㎝
紙本淡彩
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池大雅
享保8年(1723)~安永5年(1776)
諱/橆名(ありな)・勤
字/貨成・公敏
号/大雅堂・三岳道者・霞樵・九霞、他
京都に生まれ活躍した、絵師で書家、文人。
当時、応挙・若冲と並ぶ、大人気アーティストです。
20才代ですでに名声が高く、
旅が好きで日本各地を旅したため、
日本各地に大量に贋物が存在しています。
近世の絵師で、
国宝・重要文化財に指定されている作品は大雅が最も多いことは、
現在ではあまり知られていません。
文化庁にも数多くの大雅作品が収蔵されています。
川端康成、梅原龍三郎、谷川徹三ら
一流の文化人、画家たちも大雅に魅了され、
その作品を愛藏されていました。
国宝に指定されている「十便十宜図」は川端康成さんの旧蔵品です。
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左上に晩唐の詩人・杜牧の「山行」が書されています。
遠上寒山石逕斜
白雲生處有人家
停車坐愛楓林晩
霜葉紅於二月花
遠く寒山に上がれば、石造りの道は傾斜がきつい
白雲生ずる所人家有り
車を停めて坐(そぞろ)に夕暮れ時の楓林を愛でる
霜(で染まった)葉は、二月の花(桃花)よりも紅なり
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非常に丁寧に描かれた大きな作品です。
様々な種類の樹木の葉は、一枚一枚存在していて、
一つたりともただの点ではありません。
これでもかと密に描かれているのに全く煩く感じられないのは、
大雅のマジックです。
下半分真ん中に描かれた、
水分をたっぷり含んだ松葉の表現は、
潤いに満ち、清々しいほどです。
奇妙な形に根を土からから現した松樹の木陰に、
車輪の付いた輿と車夫が描かれ、
石段が見えています。
きっと、真ん中右手の平らな崖まで、
高士は石段を登って行ったのでしょう。
中景の、渓谷を挟んだ山々にたくさん代謝が施されています。
杜牧の詠んだ情景そのままを描いた大雅の画世界です。
特にこの作品が面白いのは、
右側から中央部分に張り出して描かれた木の、
様々な形の葉を繁らせた枝々が、
左から画かれた中景の山々と大きく重なっていること。
しかも、視覚的にははっきり見えるはずの手前の枝葉のほうが、
薄く描かれています。
どこまでが前景で、どこから中景か、
曖昧です。
大雅は、敢えて見る者の視覚を惑わしています。
360度見回して、周りの樹木の向うが見えなくなるような森に入った時、
右も左もわからなくなった経験はありませんか?
左右どころか、
底知れぬ大自然に包まれ、上下さえ不安なめくるめく感覚。
これを表すのが
中国の空間表現の一つ
「迷遠法」です。
大雅のこの作品は、
まさにこの感覚を見る者に与えます。
自分を持っていかれそうになる言い知れぬ揺らぎと、
何ものにも捉われない、天井知らずの自由な肌感覚に酔いしれます。
「遵生」朱文長方印
「深泥池氏」白文方印
「橆名」白文方印
折れや傷みが多いです。
画像でご確認ください。
軸装し直すと、すっかり良いコンデションに戻ります。
オリジナルコンデションにこだわる方のいらっしゃいますので、
このままご紹介いたしました。
杜牧の詩を視覚化したこの画題は、
大雅の好んだ画題だったのでしょう。
他にも複数同じ画題の作品があり、
一つは、脇村奨学会のご所蔵です。
時代無地箱
お問合せください。
大きな傷み(直ります)
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