縦 約20,9㎝
横 約19,4㎝
高さ 約4,7㎝
江戸時代
□
ほぼ方形、印籠蓋造りで几帳面の施された丸角の硯箱。
蓋表右下に、薄肉金高蒔絵で龍が描かれます。
その鱗一枚一枚のリアルなこと!
身震いする触感がざわざわと伝わります。
そしてその眼は玉眼(ぎょくがん)。
水晶などの透明な素材に裏から彩色して嵌め込まれています。
圧倒的にリアルで、古い仏像などの眼に用いられるやり方です。
硯箱の装飾表現には珍しい技法です。
激しい風によって逆巻く波と雲が、金銀の薄肉と巻き暈しで立体感をもって描かれます。
風は下から吹いているのでしょう。
龍の長い髭は、ほとんど垂直になびきます。
渦を描いた雲が上に続いて、
荒々しい龍の脚や爪が雲間から見えています。
なんてすばらしい蒔絵表現!
几帳面は金が厚く蒔かれ、所々に稲妻が金で描かれます。
雷雲と共に現れる龍に添えられた、心憎い装飾です。
蓋表の梨地に描かれた雲龍の図が、すっかり金で縁取られることで額縁的な効果を上げ、
より格調高く、シマった印象です。
◇
身は、左側に黄銅赤胴を以って作られた長方形の水滴と、縁に金を蒔いた硯が嵌め込まれ、
右側に懸子を納めます。
嵌め板は梨地で、上辺に雲、下辺に若松が金蒔絵で、
懸子は、やはり梨地に若松が金蒔絵で描かれます。
非常に精緻な蒔絵です。
◇
蓋裏は、表と全く違う趣。
密に蒔かれた梨地に、薄肉高蒔絵で、
なだらかな山が、黒をべースに山頂付近は銀粉で暈しがほどこされ、
少し梨地紛が散らされます。
山頂から中腹右へモヒカンみたいな金蒔絵の松林。
その右手前、絵画的に表現された岩の強い存在感。
肉合(ししあい)蒔絵で立体的に盛り盛りです。
金の輪郭が際立ちます。
金銀の切金(きりかね)を置いています。
様々な樹木が、それぞれ違った表情で描かれます。
岩の上から下へ垂れる柳の樹肌のなんと繊細な質感であることか!
水面を表す、細い細い金の線然り。
感動的な蒔絵表現です。
蒔絵技術が高度に発達した江戸時代の優品と存じます。
蓋表の上部の雲に大き目の、爪の先に小さなアタリがございます。
蓋の四隅に修復の痕跡がございますが、
上手い修復でございます。
他に経年による断紋、小アタリ、擦れなどがございます。
コンデションはかなり良いです。
硯は、外れません。
使用後の墨により、枠に癒着したものと思われます。
これほど極上の硯箱を、
床飾りとしてだけでなく、実際に使用されていた旧蔵者の生き様に感動します。
修復にお金を厭わない愛玩によって、
見事な姿のまま今に伝えられたのでしょう。
無地箱
¥400000
消費税・送料込
玉眼
几帳面/雷紋蒔絵
身(蓋を開けたところ)/硯部・懸子を外したところ
蓋裏
蓋裏部分
蓋裏部分
蓋表アタリ部分
□
硯部・懸子裏面/ 箱裏面
擦れがございます
側面すべてに銀雲と切金が施されています
内に一か所疵/ 同じ部分拡大
蓋内修復状況
蓋表修復状況
□