本紙 約81,6 ×28,2㎝
軸装 約172 ×39㎝
紙本墨画
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この画を見て、
「ああ、大雅の画だなぁ」と感じた方は、かなりの大雅好き。
無数の細い横波の線を細かく重ねて、
穏やかに揺蕩う水面を表します。
見ていると、優しい気持ちになってきます。
こんなにたくさんの線が引かれているのに、全く煩くなく、
心が静かになるのが不思議です。
これが、大雅作品の凄さだと思う。
精神に直接働きかけてくる絵の力。
自己表現としての絵ではなく、
人の精神の根底にある清らかな何か、優しいそのものが、
ここに現わされています。
細い横波の線を細かく重ねて水面を描いた有名な作品で比較的若い時のは、
出光美術館ご所蔵の「寿老四季山水図」(五幅対)の中の
秋の図「江上笛声図」。
撓んで茂る葦の水辺が、縦長の画面の下からずーっと上まで描かれ、
その間に延々と広がる水辺。
本作品と同じように、細く長い波線が無数に重ねられて、
小さな舟の上で笛を吹く人が描かれます。
この出光作品は川端康成さんの旧蔵。
宝暦11年(1761)、大雅39才の作品です。
細い波線を細かく重ねて水面を描いた晩年の作品で有名なのは、
重要文化財「東山清音帖」(16面)の中の「洞庭秋月図」。
扇面の、波の真ん中に波と同じくらい細い舟の上で、一人笛を吹く姿が描かれます。
最晩年・50才代の作品と考えられています。
「波の表現が澄んだ笛の音の余韻まであらわす傑作」と称えられています。
本作品に戻りましょう。
非常に繊細なタッチの水の表現と対照的に、
太く大胆な松の幹が画面の中央右寄りを大きく塞いでいます。
松の立つ土坡は諸々省略された大胆な筆致です。
この土坡のタッチは、上記の重要文化財「東山清音帖」でも使われています。
「烟浦帰帆」図の遠山の表現です。
本作品の款記は「戌子仲冬寫」。
これは明和5年(1768)、大雅46才。
ちょうど出光作品と東山清音帖の間くらいの年齢です。
若い時代に描き込んで描き込んで表現した水面は、
画業が極まる最晩年ではできる限り筆を削ぎ落し、
削って削って、エッセンスだけで表現するようになっていく、
その途中でしょう。
もちろん、本作品を描いた40代半ばは大雅の画業の円熟期。
あぶらののった、アーティストとして充実した時代の作品です。
大胆に手前に描かれた主役の松樹と、
もう一つの主役、3人を乗せた舟はバッチリ重なっています。
別の見方をすると、
主役の舟上の人物を、手前の松がブッた切っています。
面白い表現!
松の葉と幹で三方を囲まれた文人は、
手で作った輪っかから覗いて見たように、クローズアップされる効果が発揮されています。
豊かな表現から目が離せない作品です。
款記の「戌子仲冬寫」の筆は、肥痩に富み、光悦の書を思わせます。
大雅は多作ですが、制作年がはっきりわかる、款記を記した作品は少ないです。
「霞樵」の字も良いなぁ!
印章は3つ。
「池橆名印」白文方印
「弎岳道者」白文方印
この2印は、30才代後半から使われ始め、40才代で非常に多く使われ、
50才代、最晩年まで使われた印章です。
ペアで捺されることが多いです。
「前身相馬方九皐」朱文長方印は、
30才代から使い始め、最晩年まで使い続けます。
池大雅作品集(昭和35年中央公論美術出版)に収められた811作品中、
155作品に捺されています。
現在国宝や重要文化財にしていされている作品にも、
数多く使用されています。
最も使用頻度の高い印章です。
仲冬は陰暦の11月、現在の12月~1月上旬で、真冬です。
そういえば、舟の人物は「寒っ」て、着物の袂を合わせているように見えますね!
多くの樹木が葉を落とし、枯れ木の姿になる季節に、
大雅の松は緑の葉を生き生きと茂らせています。
まさに、「松樹千年翠」。
とってもおめでたく、冬でなくとも使える作品です。
最後に、
松の葉っぱをよくご覧になってください。
ピッピッピッピと書かれた一つ一つの葉、そのどれもが、一つの葉として描かれていますでしょう!
適当に描いた墨跡は一筆もないんです。
幹は水をたっぷり含んだ潤いで大胆に松の生命の本質を描き切り、
葉っぱは一つ一つの存在を大切に、
水面表現はその波の一つ一つを生き生きと繊細に、
人物の輪郭は緩く鷹揚に、
大雅の創った緩急のリズムのなんと心地よいことか!
時代箱・牙軸
素晴らしい優品ですが、
経年による皺がございます他に上部向かって左側が荒れています。
そのため、格安にせざるを得ないです。
¥110000
消費税・送料込


「池橆名印」白文方印
「弎岳道者」白文方印
「前身相馬方九皐」朱文長方印


コンデションの荒れた部分
軸装に汚れ有
上質の牙軸

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箱にシール有り

箱裏コンデション・虫食い有り
