本紙 約97,6 ×33㎝
軸装 約182,5 ×48,9㎝
絹本著色
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閑堂新掃洒
称是(早)秋天
書客多呈帖
琴僧與合絃
莎臺乗晩上
竹陰就凉眠
終日無忙事
還應似得仙
谿舎圖忝
張籍一律
橆名
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「水辺の家々の絵を
張籍の一律に添える」
と書かれています。
張籍は唐時代(8~9世紀)の詩人。
作品集・張司業詩集八巻があります。
本作品に書かれた五言律詩は、
詩集の中の一つ。
空気が澄んで気持ちの良い、
ちょうど今の季節を詠んでいます。
この作品を見た時、すぐに思い浮かんだ作品がありました。
重文・洞庭赤壁図巻(京都国立博物館蔵)。
明和8年(1771)・大雅49歳の作品です。
縦55㎝余りの3m近い巻物で、
本作品と同じく絹本に、
洞庭湖に浮かぶ島々に様々な樹々が繁っています。
こんもりとした樹々の中に、人の住む家の屋根が姿を見せます。
多作な大雅ですが、このような描き方は稀です。
洞庭赤壁図巻においては、非常に濃い着色で、樹々の繁茂を描いていますが、
本作品では透明な色彩に、漆黒の墨で細部を顕しています。
樹木の種類によって描き分けた葉の茂み。
この上なく素晴らしい表現です。
遙かな遠山が、没骨で横に長く長く引かれている手法も、
洞庭赤壁図巻と本作品の共通点です。
図巻は非常に横長な画面ですので、遠山は横に並んでいて、
本作品は縦長ですので、
遠山は縦に並んで奥行きとなっています。
透明感のある奥深い緑の樹々のある水辺の地。
穏やかな谿居の様子、
遙か彼方まで続く景色。
見る者の心に清風が吹き抜ける、なんて気持ちのいい世界。
大雅にしか描けなかった画世界です。
胸が痛いほど美しい。
右上に、手前の崖が姿を見せることで、
額縁のような効果を上げると同時に、
手前からジグザグに画面構成され、
画の中の世界がずーっと遠く、
見えない程遠くまであることを感じさせます。
上質な墨で丁寧に書かれた詩文の書も見事です。
〈深濘池氏〉白文方印
〈橆名〉白文方印
この印章は、年記のある作品では、
「雲林清曉図」宝暦9年(1759/大雅37歳)の作品、
「朝鮮通信使行列図」宝暦14年(1764/大雅42歳)以降、に捺されており、
30歳代と40歳代前期と考えらる作品に捺される印章で、
「深濘池氏」と「橆名」は、
同じ印材の両面です。
関防印の〈遵生〉朱文長方印は、
30歳代後期~生涯使われた印章。
この3つの印章が同時に捺された作品例は、
池大雅作品集(昭和35年中央公論美術出版)№200「車前草(オオバコ)図」。
紙本墨画のこの作品には、車前草に、
本作品と同じ張籍の七絶が書され、
「右唐人張籍答開州韋使君寄一絶」と記されています。
大雅の絹本着色作品は数が少ない上に、
本作は名品中の名品と存じます。
印章と謹直で充実した筆致から、
40歳代前半の作品と考えます。
汚れ、傷みはほぼ見当たりません。
上質な金糸の緞子の中廻し裂に、
金襴の天地一文字裂の表具。
京都岡墨光堂の口巻紙附属
時代二重箱
¥1,500,000
消費税・送料込
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池大雅
享保8年(1723)~安永5年(1776)
諱/橆名(ありな)・勤
字/貨成・公敏
号/大雅堂・三岳道者・霞樵・九霞、他
京都に生まれ活躍した、絵師で書家、文人。
当時、応挙・若冲と並ぶ、大人気アーティストです。
20才代ですでに名声が高く、
旅が好きで日本各地を旅したため、
日本各地に大量に贋物が存在しています。
近世の絵師で、
国宝・重要文化財に指定されている作品は大雅が最も多いことは、
現在ではあまり知られていません。
文化庁にも数多くの大雅作品が収蔵されています。
川端康成、梅原龍三郎、谷川徹三ら
一流の文化人、画家たちも大雅に魅了され、
その作品を愛藏されていました。
国宝に指定されている「十便十宜図」は川端康成さんの旧蔵品です。
〈深濘池氏〉白文方印〈橆名〉白文方印/〈遵生〉朱文長方印
大雅は葉の一枚一枚、一本一本を描きます
表具裂・極上品の象牙軸先
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蔵番貼札有り