本紙 99 ×30,3㎝
軸装 162,5 ×41,9㎝
紙本墨画

陶淵明(365~427)は、
中国・東晋から宋時代の古典詩人。
官僚の地位を捨て、田園で晴耕雨読の隠遁生活を送りました。
「桃源郷」の元となった文学作品「桃花源記」や
長編詩「帰去来の辞」を書いたことや、
お酒が大好きなこと、
菊の花を愛したことで知られています。

大雅は陶淵明を数多く描いています。
権力やお金から離れ、清貧な生活をしながら、
芸術的に非常に優れた詩作品を残した陶淵明は、大雅の憧れであったでしょう。

本作品には、座った貴人に極く小さな菊の花が描かれています。
小さな菊の一枝に、恍惚とした表情です。
菊の香りのよいのが、見る者に伝わります。

普通の毛筆で描かれたのではないようです。
顔部分の線は非常に細く、
体の輪郭を表わす筆跡はおおらかに割れ、墨を保っていられない素材から紙に乗せられています。

最小限の筆数で、描いた対象の本質を描き出しています。

頭に被った布など、青墨はうるうると水を含み潤って滲みまくっています。
眉鼻の印影の入れ方は指墨画のそれです。
若い時代に指墨で培った技法を、年齢を重ねてから昇華させた作品です。

款記「橆名」も水分の多い筆で、力の抜けた書き方です。

「霞樵」朱文聯印は、
30歳代半ばから生涯使われ、最も使用頻度の高い印章の一つ。
「池橆名印」白文方印も、30歳代半ばから生涯使われた印章です。
款記により制作年のはっきりした作品では、
「霞彩嵐光図巻」(明和3年・44才)に捺されています。

川端康成氏旧蔵の「五君咏図」にも、この二つの印章が共に捺されています。

立ち姿の多い陶淵明が、五君咏図と同じように座像で描かれ、
肥痩の極端な、削られた筆致、
落款の姿から、晩年の作品と推測いたします。

本紙に破れ痕、きつい折れございます。
軸装のコンディションも良いとは言えませんので格安ですが、
優しい優しい繊細なタッチの表情と荒っぽい衣の筆致、
潤った青墨による全体のバランス。
大雅でなければ到達しえなかった、描かれた人の精神まで伝える素晴らしい絵画表現。
優品です。

時代箱付

¥132000
消費税・送料込

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池大雅
享保8年(1723)~安永5年(1776)
諱/橆名(ありな)・勤
字/貨成・公敏
号/大雅堂・三岳道者・霞樵・九霞、他

京都に生まれ活躍した、絵師で書家、文人。
当時、応挙・若冲と並ぶ、大人気アーティストです。
20才代ですでに名声が高く、
旅が好きで日本各地を旅したため、
日本各地に大量に贋物が存在しています。

近世の絵師で、
国宝・重要文化財に指定されている作品は大雅が最も多いことは、
現在ではあまり知られていません。
文化庁にも数多くの大雅作品が収蔵されています。

川端康成、梅原龍三郎、谷川徹三ら
一流の文化人、画家たちも大雅に魅了され、
その作品を愛藏されていました。
国宝に指定されている「十便十宜図」は川端康成さんの旧蔵品です。

池大雅筆陶淵明図
    
折れ / 落款 / 菊


破れ修復痕
 
本紙上部空白部の汚れ / 軸装傷み
唐木軸先
   
裏面コンディション
  
蓋表墨書き「五柳先生像池大雅真蹟」(五柳は陶淵明の別称)
蓋裏の、旧蔵者墨書き部分が消されています
箱に軸を収めた時の、軸先の受けが片方しかございません

差し込み式の蓋