本紙 106 ×35,5㎝
軸装 181,5 ×44,4㎝
紙本着色
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一瞬で心を奪われる、優しく美しい色彩。
奇跡のような一幅です。
画面の真ん中に、橋で繋がれた水辺の建物。
屋根のある立派なその橋を、人物が渡っています。
島々には、様々な樹が生えています。
それぞれが持つ違う形の葉を、
大雅は一つ一つ丁寧に描きます。
本作品で特に目を惹くのは、
幾重にも峰を重ねて後ろに高く聳える山の、色彩の美しさ。
峰の各々が、薄墨・代赭(朱)・藍・緑の色を持っています。
カラフルな色彩。
なんて美しい。
点苔(てんたい/岩肌の輪郭などに施される点々)も、
通常使われる墨色でなく、緑と代赭で施されています。
それによって、理想世界が眩く出現しています。
夢のように美しい画世界です。
前景の林、真ん中の橋で繋がれた島と水辺の邸宅、
ずっと向うの、滝の落ちる高い山。
どこにも手抜きがありません。
手前の林から右の懸崖へ、
細い渡り橋を行って左へ、
画面の外できっとつながっているであろう中景の林は右へ傾いて、
水楼に掛かる橋を強く印象付けます。
右へ行ったり、左へ行ったり、また右へ行ったり、
見る者の心を揺らします。
款記にある丁丑(ひのとうし)は、宝暦7年(1757)。
大雅35才の作品です。
首夏は4月の異称です。
作品のところどころにちりばめられた代赭(ピンク色)の点々は、
花の咲く、自然の景色の表現でしょう。
見事です。
20才代の大雅の作品は、線が細く硬く神経質さが感じられる作風ですが、
本作品は、丁寧なタッチでありながら、神経質さはなくなり、
とってもおおらかな印象です。
作風が完成される過渡期の力作といってよいと思います。
池大雅作品集(昭和35年中央公論美術出版)掲載811作品中、
款記に制作年が明記されているのは、75作品。
とても少ないんです。
30才代作であることが款記に記されているのは、13作品、
しかも宝暦5年・33才から同8年・36才の間、款記に制作年が書かれている作品はありませんでした。
その点でも、宝暦7年の記載のある本作品は貴重な一幅といえるでしょう。
宝暦5年・33才の款記のある
「四季山水図巻」(MOA美術館蔵)は、かなり硬さの残る若い筆致です。
36才の「雲林清暁図」(萬福寺の住持・大鵬正鯤へのお祝い)は、
太くやわらかな瑞々しい筆致で、大雅の画風が極まってきたことがわかる作品。
また、私の調べた範囲では、制作年の記載された作品の中で、
最も早い「霞樵」落款です。
本作品の款記は
「丁丑首夏霞樵寫」
上記作品より一年早く「霞樵」と記しています。
《无名》朱文聯印は、30才代で使われた印章。
《碧梧翠竹山房》白文長方印もほとんど30才代でだけ使われた印章です
共に、上記の「四季山水図巻」(MOA美術館蔵)にも、
川端康成旧蔵/出光美術館蔵「山邨馬市図」(宝暦5・33才)にも捺されています。
2つは、池大雅作品集(昭和35年)掲載の11作品にペアで捺されています。
大きさから鑑みて、同じ印材の両面かもしれません。
作品のスケールには少し大きな、古清水焼の軸先がつけられています。
軸装の状態は全くよくありませんが、
本紙は小さな虫穴があるだけで、悪いコンデションではありません。
267年前の作品としては良い状態です。
箱無
本作品の軸装替えは、お買い上げのお客様と相談させていただきたく存じます。
お問い合わせください。
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本紙コンデション仔細
軸装コンデション仔細