開いた時の横最大 約43㎝
紙の縦幅 約17,2㎝
扇の縦長 約31㎝
紙本着色
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しなやかな柳の樹の下、水辺に二棟建ての家があり、
一部屋にはこの家の主人らしき人物。
隣の建物には二人の客人がいて、童僕がお茶を出そうとしてしているようです。
主人の前には真っ赤な敷物。
硯が乗っているのかな。
後ろに迫る山肌から、様々な木々がそれぞれの葉を豊かに茂らせています。
とても丁寧で、柔らかなタッチ。
畳みかけるような段々の山肌。
濃い墨、薄い墨で、髭みたいな皴がやはり丁寧に施されています。
こんなにびっしり描かれているのに、ちっともうるさくなく、
見る者の心を優しく掴んでくれます。
自然と気持ちが緩む絵です。
退色してしまっていますが、
樹々には様々な緑が、彩色されています。
かなりの力作です。
賛は、
嫩緑微黄碧澗春
採時聞道断葷辛
不将銭買将詩乞
借問山翁有幾人
中国・唐時代の詩人、姚合(ようごう/775~755)の詩「乞新茶」です。
緑の浅い春の水辺の事が一行目にあるので、
その風景を描いたのでしょう。
この作品のように、
種類の違う樹々の葉を、それぞれ特徴的に丁寧に描くのが大雅の特徴の一つです。
よくご覧ください。
一枚一枚、葉っぱとして存在しています。
決して適当ではないんです。
大雅は20才代で全国区で人気がありましたので、
モーレツにたくさんの贋作がありますが、
贋物は、葉っぱを葉っぱとして描いていない場合がほとんどです。
お茶を運んでいる僕童のちっちゃいこと!
でも、250年以上経った今も、画の中で生きています。
客人たちの、うきうきした会話が聞こえてきそうです。
おおらかで豊かな筆致の陸側に対し、
水面の表現の繊細な線。
大雅は多種多様な技を駆使して、見る者を虜にする画世界を出現させています。
画も書も、一目で大雅とわかる作品ですが、
この款記の銘がわからない。
「《行千屋師》寫」
一度も聞いたことも見たこともない名前。
重なるように捺された印章も、初見で、どの資料にもありませんでした。
大雅ばかりやっていますが、未知の部分がございます。
凄い人だ。
山の中に捺された印章「玉皇香案吏」朱文方印は、
大雅が20才代から40才代まで使い、
数多くの作品に捺された印章です。
本紙に虫食い、傷み、修復痕がございます。
誂え古裂袋付
《お買い上げありがとうございます》
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裏面/骨が波打っています
「玉皇香案吏」
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池大雅
享保8年(1723)~安永5年(1776)
諱/橆名(ありな)・勤
字/貨成・公敏
号/大雅堂・三岳道者・霞樵・九霞、他
京都に生まれ活躍した、絵師で書家、文人。
当時、応挙・若冲と並ぶ、大人気アーティストです。
20才代ですでに名声が高く、
旅が好きで日本各地を旅したため、
日本各地に大量に贋物が存在しています。
近世の絵師で、
国宝・重要文化財に指定されている作品は大雅が最も多いことは、
現在ではあまり知られていません。
文化庁にも数多くの大雅作品が収蔵されています。
川端康成、梅原龍三郎、谷川徹三ら
一流の文化人、画家たちも大雅に魅了され、
その作品を愛藏されていました。
国宝に指定されている「十便十宜図」は川端康成さんの旧蔵品です。