約15,8×22,8㎝長方
高さ 約15,6㎝
江戸時代
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茶箱としましたが、
茶箱としては大きく、紐金具を備えていますので、
本来は別の用途であったかもしれません。
蒔絵のモチーフは「菱」。
水草の一種で、葉が水面に浮かぶ植物です。
「君がため 浮沼の池の菱摘むと 我が染めし袖 濡れにけるかも」
万葉集で、柿本人麻呂によって詠まれるほど、
古い時代から日本人に親しまれていました。
「あの方のために沼の湖面の菱の実を摘んでいたら、
美しい色に染めた衣の袖が濡れてしまった」
袖が「濡れる」のは、沼の水によってだけでなく、
会えない涙によってでもありましょう。
愛しさの奥床しい表現にための「菱」であると同時に、
縄文時代から食文化にも密接にかかわる「菱」。
非常に深遠なモチーフです。
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放射状に広がる葉が、金高蒔絵で表現され、伸びやかな蔓植物の満開の花のようです。
中心部分の葉柄(ようへい)は、
金高蒔絵、金金貝・銀金貝とバリエーション豊富な装飾表現。
切箔にも見えますが、剥落部分に凹みがありますので、
(金銀の)ごく薄い板を張り付けた金貝(かなかい)技法でしょう。
菱の実も、更に様々な装飾技術を以って描かれます。
実物を彷彿とさせる、硬く鋭い棘もリアルな立体表現の実。
一見、漆を盛ったようにも見えますが、
削った線の断面が鋭利なことから鉛か錫を貼っているようです。
金金貝・銀金貝を丁寧に丁寧に縞に並べて敷き詰めた実もあります。
金高蒔絵に金銀金貝を施した実もあります。
恐るべき細密さ、気の遠くなるような時間と技とお金をかけた超絶な装飾です。
どうぞ画像を拡大してご堪能ください。
見るほどに様々な美しい表現技を発見されることでしょう。
空間は梨地が施されています。
金粉を作る技術が成熟していない古い時代の立体的な金粉と思われます。
内側と底裏面もすっかり梨地が施され、
表面のクールな黄金に比して、
赤味の強い明るい金紛です。密に蒔かれています。
金をふんだんに使った雅な蒔絵に、メタリックで尖った菱の実。
強い印象を見る者に与える作品です。
蓋表の辺の一部に、非常に大きな瑕疵がございます。
そこから、被せ蓋の側面が割れて、修復した跡がございます。
また、蓋の三つの角は、接合部が修復されています。
内部の底面、蓋裏面は、経年による断紋が表れています。
黄銅菊形紐金具付
修復時に紐を外したのでしょうか。
紐はつけられておらず、付随しています。
誂え無地箱
¥450000
消費税・送料込
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金銀金貝細部
匣内側/ 断紋拡大
蓋内側/ 断紋拡大
大きな疵から内部が見え、いかに厚く漆が塗り重ねられているかわかります/ 同じ部分別角度/ 拡大
蓋のキズ表面から
蓋のキズ内側から
紐は取り外された状態です
誂え箱蓋上に汚れ有
四方桟蓋
凹みあり