本紙 107,5 ×28,4㎝
軸装 179 ×40,5㎝
紙本墨画
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とっても困った顔の虎。
斜めにかかる太い棒に両前脚をかけ顎を乗せ、ぶら下がった状態です。
下から竹の葉っぱが一枚見えていて、
太い棒は、竹なんです。
他の絵画作品では見たことのない、滑稽で情けない姿の虎。
昭和8年、恩賜京都博物館(現京都国立博物館)で開催された
「池大雅遺墨展覧会」の《池大雅名画譜》68ページには、
絖本墨画の竹虎図が掲載されています。
本作品と同じように、
斜めに渡した太い竹の幹に、虎は両前脚を掛けて乗っているんです。
この、他で見ない竹虎の構図は、
大雅だけの世界観。
普通は雄々しく勇猛な生き物の象徴として描かれる虎から、
権威的な印象や、猛々しさをすっかり取り去った、親しみのある姿です。
《池大雅名画譜》の虎は、
ちょうど不思議の国のアリスの挿絵のチェシャ猫みたいに、
ドヤ顔で竹の幹に乗っています。
本作品の虎は、さらに進んで、
直立する竹に飛び乗って竹を倒そうとしたら、思いのほか竹の力が強くて、跳ね返ってしまった!
「困った、助けて~」
と叫んでいるようです。
開いた口から牙が見えています。
虎の毛皮は、水分をたっぷり含んだ青墨でもさもさと描かれ、
濃い墨のシマがちょっとだけ加えられています。
古典の虎図に用いられる、毛の一本一本を丁寧に描く手法と、
没骨の手法をミックスし、
的確かつ、ユーモラス!
この時代、生きた虎は日本にはいなくて、
舶来された毛皮と、猫の生態から、絵師たちは虎を描いたといわれています。
大阪のいろんなもの大コレクターで、文化芸術のサロンの主・木村蒹葭堂は、大雅の弟子でも、親しい友人でもありました。
そこで、虎の毛皮を見たとしか思えません。
写実が絵画表現に昇華されています。
竹の葉も一枚半しか描かれず、
最小限の表現。
大雅の筆が極まった、素晴らしい作品です。
款記の「霞樵」の「霞」の下半分が「め」のようになって、
最後があっさり斜めに下がる書き方。
40才代後半に多い姿です。
「霞樵」朱文聯印
「前身相馬方九皐」朱文長方印
は、共に、
30歳代半ばから、生涯使われ、最も使用頻度の高い印章の2つです。
この二つが同時に捺された作品は、
池大雅作品集(昭和35年中央公論美術出版)掲載画作品682点中、
84作品と、非常に多いです。
本紙に汚れや傷みが散見されますが、
作品の価値を著しく損なう程度ではございません。
画像でご確認ください。
大雅の虎は珍しいです。
無地箱
¥250000《お問い合わせいただき中》
消費税・送料込
本紙コンデション
鳳凰唐草緞子中廻裂・唐木軸先
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側面にマジックによる書き込みがございます
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池大雅
享保8年(1723)~安永5年(1776)
諱/橆名(ありな)・勤
字/貨成・公敏
号/大雅堂・三岳道者・霞樵・九霞、他
京都に生まれ活躍した、絵師で書家、文人。
当時、応挙・若冲と並ぶ、大人気アーティストです。
20才代ですでに名声が高く、
旅が好きで日本各地を旅したため、
日本各地に大量に贋物が存在しています。
近世の絵師で、
国宝・重要文化財に指定されている作品は大雅が最も多いことは、
現在ではあまり知られていません。
文化庁にも数多くの大雅作品が収蔵されています。
川端康成、梅原龍三郎、谷川徹三ら
一流の文化人、画家たちも大雅に魅了され、
その作品を愛藏されていました。
国宝に指定されている「十便十宜図」は川端康成さんの旧蔵品です。