約24,7 ×8,8㎝長方
高さ 約5,5㎝
江戸時代後期

飯塚桃葉/ いいづかとうよう
生没年不詳
阿波藩主蜂須賀家に仕えた蒔絵師。
号/ 観松斎
昨年令和6年、根津美術館ご所蔵・飯塚桃葉作「百草蒔絵薬箪笥」が
重要文化財に指定されたことは、記憶に新しいですね。
根津さんでは昨年秋、この薬箪笥の特別展が開催されました。
桃葉は、東博・宮内庁ご所蔵の作品も制作されています。

細い竹の支柱が螺鈿によって少し斜めに上から下まで貫き、
短い胡瓜がぶら下がっています。

上から細い細い糸をおしりから引いた女郎蜘蛛。

盛り上げられた蜘蛛の立体感。
脚の運びのリアルなことよ!
細い脚の関節は高く盛られ、節々が接合されたごくわずかな隙間が表現されています。
黄色と黒の縞模様は、
蒔いた金の濃淡で表わされます。
蜘蛛の重さのバランスで、糸が最後だけわずかに傾いていますね。
なんという観察眼!

胡瓜もかなり立体的かつ生き生きと描かれます。
表面のイボイボや張った皮の質感、
葉裏のちょっと毛が生えたようなざらざら、
花ビラや花芯の優しくリアルな姿、
こんな蒔絵表現ができるなんて!

酒井抱一の画もそうですが、
絵師の都合に合わせて自然の姿から離れた出鱈目な表現は、
全くされていないんです。
自然の摂理に対する崇尊が、超一流の表現者の根底を貫いています。

画面上部に描かれた大きな葉は、
真ん中の葉脈から折れて、下辺が直線です。

螺鈿で描かれた支柱と蜘蛛の糸が縦の直線なのを、
その横一線が切っています。
その上下に添えられたらせん状の蔓たち。

画面構成のセンスも卓越して素晴らしい!

夕顔や瓢箪といった、古典表現のモチーフでなく、
胡瓜は食べるための庶民の身近な植物。
その、身近な生き物の美しさを取り上げるところが非凡です。
尋常ならざる秀逸なセンス、
超絶な技巧です。

大きな瑕疵はございませんが、
小さなアタリ(疵)、擦れ、剥げなどが散見されます。
また、側面の螺鈿は、修復された痕跡がございます。

この作品はご来店され、直接お客様の目でご覧くださいますことをお勧めいたします。

箱無
(誂え中)

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飯塚桃葉作胡瓜に女郎蜘蛛蒔絵書状箱

飯塚桃葉作胡瓜に女郎蜘蛛蒔絵書状箱
 飯塚桃葉作胡瓜に女郎蜘蛛蒔絵書状箱
葉裏のざらつき/ 花弁と花芯の柔らかさ、繊細


胡瓜のイボイボ・皮の張り感

 
側面/ 螺鈿貼り直しの痕跡仔細

螺鈿貼り直しの痕跡
 
側面/ 螺鈿貼り直しの痕跡仔細
  
蓋内側
 
本体内側

裏面
 
疵仔細