本紙 約106 × 26㎝
軸装 約172 × 29㎝
紙本淡彩

狸舞せ わさ(技)はなく
九霞墨戯

裃を付けた狐が二匹。
一匹は三味線を弾き、
一匹は膝に手を載せて、一曲呻っているようです。
それに合わせて、
狸は踊りながら、
お腹に載せた太鼓を撥で叩いています。

山水画に比べ数は少ないですが、
大雅は戯画・おとぎ話を題材にした作品も描いています。

「狸舞わせ 技もなく」の「舞」の最後の一画の長いこと長いこと!
「なく」の「く」の字ものびのびと擦れ、
寄り添うように書かれた款記「九霞」の姿も面白い!
小さな「九」に縦に長く引き伸ばされた「霞」。
自由自在に動きまくって、一つの絵のように納まっています。

書のすぐ下に袴姿に裃をつけ正装、正座した狐たちが描かれます。
だいぶ広い間を空けて、
狐と対照的に毛むくじゃらな手足が露わな、
滑稽な恰好の狸。

書と裃狐が近すぎです。不思議なバランスです。

「狸舞わせ 技もなく」は、
(単純な)狸なんか、簡単に躍らせちゃうよ、
→簡単に他者の言葉に踊らされるな、
の意でしょうか。

大雅は白隠禅師に参禅しています。
臨済さんは、
「人に騙されるな、見性せい」
とおっしゃっいました。

その禅の教えを、大雅らしく、
深刻ぶらずに現したのかもしれません。
ドレスコードの高い装い(それらしい格好でそれらしいことをいう存在)だと、人の心を動かしやすい、
の意にも思えますし、
その正装正座した狐の眉間に皺のよった表情に比べ、
広い空間で無邪気な狸が自由にも見えます。

シュッとした線のスマートな狐に比べ、狸はいかにも不細工な姿。
それを、少ない筆致で見事に表現しています。
狸の肩がちょっと上がって両腕を丸くしているのは、
まん丸なお腹を輪郭で表わしているのでしょう。

「墨戯」--戯れに描いた、と言いながら
深い精神に通じる何かが、
大雅だけしか到達しなかった画力によって現われています。
見る者の精神のありようで、
様々な意味を読み取れる作品です。
抜群に洒脱な作品です。

款《九霞墨戯》
この、「霞」をうんと縦長に書く書き方は、
30才代中~後期の款記の一つ。
いかにも遊びのある姿です。

「池橆名」白文方印
この印章は《白糸瀑布真景図》(個人蔵/2018年京都国立博物館池大雅展図録№114)
に捺されています。
池大雅作品集(昭和35年中央公論美術出版)掲載画作品682点中では、
この作品にのみ捺されてて、40才頃の作品とされています。

「新嬪面上濡笑靨一宮鏽暮裏行」白文長方印
この印章は、
《布袋童子図》(出光美術館所蔵)、
《倣董太史富岳図》(個人蔵・2018年京都国立博物館池大雅展図録№112)
に捺されています。
布袋童子図は20才代末、富岳図は30才代前期の作品と考えられています。

款記の書き方、印章から、
30才代中~後期の作品と推測します。
狐の裃には藍が薄く着色されていて、
センス抜群の一幅です。

大雅堂五世 定亮鑑定書二重箱

大雅と妻の玉瀾が亡くなったあと、大雅を強く思慕した門人たちは、
二人の住まいのあった真葛ヶ原に《大雅堂》を建て、
大雅の遺愛品・作品を残し伝えました。

本作品で箱の蓋裏に鑑定を書いた定亮は、
その堂主5代目で、当時の大雅作品の鑑定人です。
大雅堂は明治19年(1886)、円山公園の造成に伴いなくなります。
その後、最後の堂主・六世霞邨から大雅の遺品を譲られたのが、
池大雅美術館創立者の佐々木米行氏です。
氏のコレクションは、京都府に寄贈され、府所蔵品となっています。

作品本紙右側に、きつい縦皴がございます。
他にも折れや経年による汚れがございますが、
シミはほとんどなくきれいです。

象牙軸先

¥385000
消費税・送料込

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池大雅筆狸舞図


狐の下も折れがございます


書部分右端の本紙の折れ


裏面


池大雅
享保8年(1723)~安永5年(1776)
諱/橆名(ありな)・勤
字/貨成・公敏
号/大雅堂・三岳道者・霞樵・九霞、他

京都に生まれ活躍した、絵師で書家、文人。
当時、応挙・若冲と並ぶ、大人気アーティストです。
20才代ですでに名声が高く、
旅が好きで日本各地を旅したため、
日本各地に大量に贋物が存在しています。

近世の絵師で、
国宝・重要文化財に指定されている作品は大雅が最も多いことは、
現在ではあまり知られていません。
文化庁にも数多くの大雅作品が収蔵されています。

川端康成、梅原龍三郎、谷川徹三ら
一流の文化人、画家たちも大雅に魅了され、
その作品を愛藏されていました。
国宝に指定されている「十便十宜図」は川端康成さんの旧蔵品です。